いきをもらした

「そういうことじゃない。皮膚の提供者がだれだろうと、どうせ、提供した時点で死んでるんだ。問題は、人間の皮膚がインクを保持できないことだ」ベルガラスは巻物を一フィートば物業二按かり広げた。「見るがいい。読み取れないほど字が薄れちまってる」
「なにかを使ってもう一度読めるようにできないの――あのときアンヘグの手紙を解読したみたいにさ?」
「ガリオン、この巻物は三千年前のものなんだぞ。アンヘグの手紙に用いた塩の溶液を使ったりしたら、巻物は完全に溶けてしまう」
「じゃ、魔術は?」
いきをもらした

 ベルガラスは首をふった。「もろすぎる」ふたたび毒づきながら、明るい方へ移動して、慎重に少しずつ巻物をほどいていった。「ここになにかあるな」ベル公屋貸款ガラスはおどろいたようにうなった。
「なんて書いてあるんだい?」
「『………蛇の国に〈闇の子〉の道を求め……』」老人は顔をあげた。「これは重要だぞ」
「どういう意味だろう?」
「書いてあるとおりさ。ザンドラマスはニーサへ行った。そこへ行けば足跡が見つかるのだ」
「そのことならもうわかっていたはずだよ」
「そうではないかと考えていただけだ、ガリオン。同じじゃない。ザンドラマスはわれわれをあざむいてでたらめな足跡をたどらせた。今度こそまちがいない」
「それほど確実とは言えないよ」
「わかっているさ、だがなにもないよりはましだ」
「ちょっと、あれを見た?」翌朝、セ?ネドラ雀巢奶粉が憤慨して言った。彼女は起きぬけのまま、あたたかいローブにくるまって窓のそばに立っていた。
「うん?」ガリオンはねぼけ声をだした。「なにを見たって?」ぬくぬくしたキルトの下にすっぽりともぐりこみながら、かれは眠りの世界へ戻ろうと真剣に考えていた。
「そこからじゃ見えないわ、ガリオン。こっちへきて」
 ガリオンはためいきをついてベッドからすべりでると、はだしで窓に近づいた。
「うんざりしない?」
 宮殿の敷地が白一色におおわれている。大きな雪片がしんとした大気中をものうげに舞っていた。
「トル?ホネスで雪がふるなんて、ちょっとめずらしいんじゃないか?」
「ガリオン、トル?ホネスでは雪はふらないのよ。わたしがここで最後に雪を見たのは、五つのときだったわ」
「めずらしい冬だったんだな」
「さあ、わたしはベッドに戻るわ、雪が全部とけるまで起きませんからね」
「おもてにでる必要はないんだよ」
「見るのもいやなのよ」セ?ネドラはぷりぷりしながら天蓋つきのベッドに引き返し、ローブを床に脱ぎ捨てると、キルトの下にもぐりこんだ。ガリオンは肩をすくめてベッドに戻ろうとした。あと一、二時間は眠ったほうがよさそうだった。
「ベッドのカーテンをしめて」セ?ネドラが言った。「部屋を出るときは静かにしてちょうだい」
 ガリオンは一瞬彼女をにらんだが、すぐにあきらめてため。ベッドのまわりのどっしりしたカーテンをしめ、ねぼけまなこで服をきはじめた。
「お願いがあるの、ガリオン」セ?ネドラが甘えた声で言った。「厨房に立ち寄って、わたしがここで朝食を食べたがっていると伝えてくださらない?」
 ずいぶん身勝手じゃないか、とかれは思った。むっつりして、残りの服に袖を通した。
「ねえ、ガリオン?」
「なんだい?」かれは努めておだやかに言った。
「髪をとかすのを忘れないで。朝のあなたって、いつも藁の山みたいなんですもの」その声は早くも半分眠りかけているように聞こえた。
 火の消えた食堂へ行くと、ベルガラスが窓の前に不機嫌な顔ですわっていた。早朝だというのに、かたわらのテーブルにはジョッキがのっている。「これが信じられるか?」かれは愛想がつきたように窓の外を舞う雪を見やった。
「じきにやむと思うよ」


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