玄武岩の尖塔の基部にようやくたどりつき、かれらが馬を置いてきた巨大な洞穴に来たときには昼になっていた。バラクがそっとベルガラスの体を横たえているあい
SCOTT 咖啡機評測だ、シルクが洞穴の口で見張りにたった。「ご老体は見かけよりもかなり体重があるな」大男は顔の汗をふきながら、うなるように言った。「そろそろ意識を取り戻してもいいじゃないんですか」
「完全に正気に戻るまでには何日もかかるでしょうね」ポルガラは答えた。「それまでは暖かくくるんで寝かせておくしかないわ」
「だがどうやって馬に乗せるんですか」
「それはわたしがなんとかするわ」
「当分だれも馬には乗れそうにもないな」シルクが洞穴のせばまった入口から言った。「外にはマーゴ人どもがスズメバチみたいにうようよしているぜ」
「それでは夜まで待つことにしましょう」ポルガラが決断を下した。「どちらにせよ、わたしたちには休息が必要だわ」彼女はマーゴ人のローブの頭巾を後ろに
SCOTT 咖啡機開箱はねのけ、昨晩立ち寄ったとき、洞穴の壁に積み上げておいた荷物のひとつに向かった。「なにか食べ物を探すわ。食べ終わったらここでみんな休みましょう」
再びガリオンのマントにくるまった奴隷女のタイバは、ほとんどレルグから視線をそらそうとしなかった。大きな紫色の瞳がかすかな当惑の入りまじった感謝の念で輝いていた。「あなたはあたしの命の恩人だわ」朗々としたしゃがれ気味の声だった。奴隷女は話しかけながら、つと身を男に寄せかけた。ガリオンはそれが無意識のしぐさなのだろうと思ったが、女の動作ははためにもはっき
優思明りわかるものだった。「本当にどうもありがとう」タイバは狂信者の腕に、自分の手をそっと重ねようとした。
レルグは身を縮めるようにして彼女から遠のいた。「さわるな」かれは息をつまらせんばかりに言った。彼女は驚いたような目をしてさしのべかけた手を途中でとめた。「いいか、おまえの手なんぞを絶対におれにさわらせたりはしないぞ」
タイバの顔に信じられないといった表情が浮かんだ。それまでの人生をほとんど暗黒のなかで過ごしてきた彼女は、感情をうちに秘めるすべを知らなかった。驚きはやがて屈辱にとってかわり、顔にはこわばったふくれっつらのような表情がはりついた。タイバは彼女を激しく拒絶した男からぷいと顔をそむけた。向きを変えた拍子に肩からマントがすべり落ち、裸を覆う役目をほとんどしていない、わずかなぼろきれがあらわれた。髪はもつれ、四肢には汚れがこびりついていたが、そこにはみずみずしい、成熟した魅惑的な女らしさがあった。レルグは女を見るなりがたがたと震え出した。次の瞬間かれはぷいと顔をそむけると、できるかぎり遠ざかってひざまずき、洞穴のごつごつした地面に顔をおしつけ、死にもの狂いで祈りはじめた。
「この人どうかしちゃったのかしら」タイバがあわててたずねた。
「まあ、やつにはちょっとした悩みがあってね」バラクが答えた。「きみもそのうちに慣れるだろうが」
「タイバ、ちょっとこっちへ来てちょうだい」ポルガラは女のわずかな着衣をじろじろ眺めて言った。「もう少しなにか上に着たほうがよさそうね。外は相当な寒さだし。もっとも理由はそれだけじゃなさそうだけれど」
「わたしが荷の中から適当なものを見つくろってくることにしましょう」ダーニクが申し出た。
「それにこの子にも何か着させてやった方がよさそうだ。上っぱり一枚じゃあんまり暖かいとはいえないだろうし」かれはもの珍しそうに馬をながめる子供を見ながら言った。
「あたしのことなら別にかまってくれなくてもいいのよ」とタイバ。「外にでたってしょうがないし、あなたたちが行ったらあたしもラク?クトルに戻るつもりだから」
「あなた何を言ってるの」ポルガラが鋭い口調でたずねた。
「あたしにはクトゥーチクと、どうしても決着をつけておかねばならないことがあるのよ」タイバは錆だらけのナイフをもてあそびながら答えた。
シルクが洞穴の入口で笑い声をあげた。「それならわれわれがかわりにやっておいたよ。ラク?クトルはいまや瓦礫と化し、クトゥーチクの体は床のしみほどにも残っちゃいないさ」
「死んだの」タイバはあえぐような声を出した。「どんなふうに」
「言ったってきみは信じないだろうな」
「あいつ、ひどく苦しんだのかしら」タイバの声には異様な熱気があった。
「ええ、およそ想像もつかないほどね」ポルガラがかわって答えた。
タイバは長い、わななくようなため息をもらしたかと思うと、泣き出した。ポルおばさんは腕を広げて、すすり泣く女を抱きしめた。幼いガリオンが泣いたときに、いつも慰めてくれたのとそっくり同じように。
ガリオンはぐったりと床に座りこんで、ごつごつした岩壁に背をもたせかけた。疲労困憊の波がすっぽりかれを覆い、どうしようもないけだるさが理路整然とした思考をさまたげた。再び〈珠〉が歌い出したが、今度はすっかり穏やかな調子になっていた。〈珠〉のかれに対する好奇心がすっかり満たされた今、歌は両者を結びつけるためだけにとどまっているかのようだった。〈珠〉がなぜそんなにまで自分に関心を抱くのか、疲れ果てたガリオンには考えることさえおっくうだった。
それまで飽くことなく馬を観察していた少年はつと向きを変え、ポルおばさんの一方の腕で肩を抱かれたままうずくまるタイバに向かって歩いていった。少年は不思議そうな表情で手を伸ばし、涙に濡れた女の顔に指をあてた。
「この子、どうしたのかしら」タイバがたずねた。
「たぶん今まで涙というものを見たことがなかったのよ」とポルおばさんは答えた。
タイバは少年のきまじめそうな顔をじっと見つめていたが、だしぬけに涙をためたまま笑いだし、少年の体をかき抱いた。
少年はほほ笑んだ。「使命《エランド》?」と言いながらかれは〈珠〉をさし出した。
「それを受け取っちゃだめよ、タイバ」ポルおばさんが押し殺したような声で言った。「さわるのもだめよ」
タイバはほほ笑みかける少年に向かって頭をふってみせた。
少年はため息をつくと、洞穴を横切るようにしてガリオンのすぐかたわらにやってきて、かれに身をもたせかけた。
かれらがやってきた道の様子を探りにいっていたバラクが戻ってきた。かれの顔には厳しい表情が浮かんでいた。「マーゴ人の声がこっちまで聞こえてくるんですよ」と大男は報告した。
「洞穴の反響でどれくらい離れているのかまませんが、どうやら連中はありとあらゆる洞穴と通路を徹底的に探りまわっている様子です」
「それではもっと敵をふせぎやすい場所へうつろうではありませんか。連中がよそを探しまわってくれるかもしれませんよ」マンドラレンが陽気な声で言った。
「そいつはなかなか興味ある発言だが」とバラク。「残念ながらたいした効果があるとは思えないね。おそかれはやかれ、連中はわれわれを見つけ出すだろう」
「それはおれが引き受けよう」レルグが祈りを中断して立ち上がった。お定まりの宗教儀式もあまり効き目はなかったらしく、目には苦悩がありありと残っていた。
「おれも一緒に行こう」バラクが申し出た。
レルグはかぶりを振った。「邪魔になるだけだ」すでに山への道を引き返しかけながら、かれはぶっきらぼうに言い捨てた。
「いったいやっこさんどうしちまったんだろうな」バラクが当惑したおももちでたずねた。
「思うにわが友人は宗教的危機にひんしているのさ」洞穴の入口で監視を続けるシルクが答えた。
「またかい」